麻酔科(ペインクリニック)

ペインクリニックの発想

手術を受けるときに麻酔は必要不可欠です。麻酔なしでは手術を受けることはできません。さてその考えを逆転させたのが初期のペインクリニックです。つまり手術しても痛くないようにするのが麻酔なら、麻酔をすれば痛みが鎮まるだろうというのが発想です。

でも麻酔がきれればまたもとの傷みに戻るではないか、それならば・・・と思ったのですが、ブロック後1日経っても2日経ってももとの痛みは戻ってこないことに気がついたのです。不思議だと思いませんか?

脊髄から体の末端に神経が張り巡らされています。筋肉を動かす運動神経、痛みを感じる知覚神経そして血管を支配する交感神経で構成されています。そのうち神経ブロックでは主として知覚神経と交感神経の両方がブロックされます。知覚神経は1〜2時間で麻酔がきれます。しかし交感神経は数時間効果が持続します。これがペインクリニックで行う神経ブロックの味噌だったのですね。

交感神経がブロックされると血管がゆるみ血液の流れが一気に増えます。そうなると今まで傷んでいた神経や組織を修復することができます。ただ単に痛みを感じていた神経を一時的に麻痺させていたのではなかったのですね。血流が多くなると痛みを起こさせていた有害な物質を洗い流し、修復するために必要な栄養や酸素が多く供給されていたと考えられます。そうです、神経ブロックは痛みを取る治療であるのと同時に今までなかなか治すことのできなかった部位の治療でもあったのです。

ですから、麻酔がきれても痛みがもとに戻らなかったのです。この交感神経のブロックの効果を利用すると、痛みだけではなく血流障害によって生ずるレイノー氏病やバージャー病のような困難な病気にも効果がありますし、痛みではないが顔面麻痺や突発性難聴のような神経的な病気にも効果があることが実証されています。

交感神経は実は自律神経の一種です。自律神経は交感神経と副交感神経の二種類で構成されています。人間の命の根源をつかさどっている神経だと思ってください。自分の意志で動きをコントロールできません。心臓、ちょいとくたびれたから少し休むかい、といって自分の意志に基づいて休ませることはできません。自律神経に支配されているからです。その交感神経と副交感神経が常にバランスを取り合って働いていますが、そのバランスが崩れると様々な病気が生じます。おおむね交感神経が過緊張の時に生じやすいと言われています。

ということは交感神経の緊張を抑制したら病気は治るのではないいだろうか、というのが交感神経をブロックすることの発想です。

交感神経ブロックの意義

前のところで述べましたように、自律神経のバランスが崩れたときに様々な病気が出現する、ではそのバランスを取り戻せば病気は治るのではないか、と考えるわけです。これは中国医学の考えと非常に深いつながりがあると思います。中国医学の考え方は複雑ですが、要は体全体をみて、少しでもバランスの崩れを修復することで病気を治すという考えだと思ってください。病気の原因を突き止めてその病気に作用する薬を開発し、治療を行うという西洋医学の考えとは明らかに違います。

ということで、交感神経の緊張(興奮)ををゆるめるという治療がかなりの種類の病気に効くのではと考えられるようになりました。日本の神経ブロックを世に広めた若杉文吉博士は様々な著書の中で「星状神経節ブロック」の効能を唱えられています。彼の書物の中で交感神経節である星状神経節ブロックは高血圧にも効果があるし低血圧にも効果があると論じておられます。考えられますか?でも漢方薬で代表的な当帰芍薬散の効能書きには心臓衰弱、貧血症、つわり、月経痛、ニキビ、血圧異常などまるでバラバラであるのと同じです。

星状神経節ブロックのようにいろいろな種類の病気に効果の認められている治療はめずらしいと言っていいのではないでしょうか。それは自律神経のバランスを取り戻す治療だからということに他なりません。当然ですが自律神経失調症にも効果があります。 

対象となる疾患

対象となる疾患

痛みを強く感じる疾患
帯状疱疹、帯状疱疹後神経痛
末梢血行障害(レイノー症候群、バージャー病、閉塞性動脈硬化症など)
頭痛(緊張性頭痛、片頭痛、群発頭痛、非定型的顔面痛など)
特発性三叉神経痛、舌咽神経痛症
顎関節症
頸椎神経根症、頚肩腕症候群(変形性頚椎症、頸部椎間板ヘルニアなど)
むち打ち症
筋緊張性頚肩部痛
肩関節周囲炎(五十肩)
胸郭出口症候群
肘関節痛(ゴルフ肘、テニス肘)
手根管症候群
腱鞘炎
肋間神経痛
肋骨骨折
胸椎圧迫骨折
筋筋膜性腰痛症、ギックリ腰
神経根部型坐骨神経痛、馬尾神経型坐骨神経痛(椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症など)
変形性股関節症、変形性膝関節症
足関節炎、アキレス腱周囲炎
痛風
慢性リウマチ

痛みではないが神経ブロックが効果をもたらす疾患
心身症、自律神経失調症、慢性疲労性症候群、パニック障害など
メニエール病
突発性難聴、内耳性めまい、耳鳴り
多汗症
花粉症(アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎)
顔面麻痺(Bell麻痺、ラムゼーハント症候群など)
血管性網膜症

癌性疼痛
癌性疼痛はWHO方式にもといて、薬物による疼痛のコントロールが行われます。必要に応じて神経ブロックも併用します。
又癌性疼痛ではありませんが原因不明の慢性疼痛(主として心因性疼痛)も扱います。
顔面痙攣(神経ブロック治療は行わず、特殊な薬物を用いて治療します。)

特殊な疾患(人工呼吸器、持続点滴など)
宮崎クリニックではこれまで培ってきた麻酔学の知識と技術を使って下記のような疾患を扱っています。当然ながら訪問診療で行われます。

経管栄養を必要とする疾患
人工呼吸を必要とする疾患
気管切開をしている疾患
中心静脈栄養をしている疾患
輸液ポンプを使用して特殊な薬物を注入している疾患