最近ぼけが始まってね、物忘れはするし、人の名前が思い出せない・・・でもそのことを自分で自覚している方は認知症ではありません。忘れないようにメモしておこう、大事なものはいつでも取り出せるように決められたところにしまおう、と自分で考えます。一方認知症の方は物忘れが最も多い症状の一つですが、そうでない人の大きな違いは自覚がないということです。 昨日聞いた話を今日もまた話をする、しつこいね、いやんなっちゃうね、などと思う人はいませんか?あれ、この話昨日したんだったっけ、馬鹿みたいね、といってすぐに別の話をできる人は心配いりません。でも認知症の人は昨日話をしたということ自体を完全に覚えられず、しかも忘れたという行為に対する自覚がないことが特徴です。 認知症のそのようなことはしかしボケではなく、認知症という病名がついているとおり病気なのです。病気として考えるならば、本人はもとより家族や周囲の人の協力で対応は可能です。「私は認知症なのだ」「お父さんは認知症なのだ」の、“認知症”を“高血圧症”に変えてみてはいかがでしょう?「私は高血圧症なのだ」「お父さんは高血圧症なのだ」というふうにしてみると認知症という病気は受けいれやすくなります。難しい病気でも何でもなく、どこにでもあるポピュラーな病気の一つなんです。 認知症は告知すべきか、というテーマで今でも論議されています。認知症といわれるのは恥ずかしい、認知症ということで周囲から変な目で見られる、という風潮が今でもあります。そのために認知症を患った人は外に出ようとせず、家族も表には出したがりません。でも先ほど述べましたように普通の病気の一種だというふうに認識できれば、それほど難しい問題ではないと思います。認知症を告知して、認知症に立ち向かっていく環境を作り、周囲でそれを支えるようにさえすればいいのではと思います。
どんな病気でも早期発見、早期治療の大原則があります。アルツハイマー型認知症にしてもこの早期発見が大変重要になってきます。なぜ早期発見が大切なのでしょうか?次の4つのポイントがあります。
■早期発見により治療可能な原因をみつけて早期に治療ができる。
■原因がアルツハイマー型認知症であれば早期の薬物治療で症状の改善、進行の遅延が期待できる。
■早期の発見で患者さんの今後についてしっかり考える時間をもち、介護に余裕をもつことができる。
ではどんな変化が早期発見に結びつくのでしょう。認知症高齢者の日常生活での変化を箇条書きにしてみました。
■同じことを何回も言ったり聞いたりする
■だらしなくなった
■夜中に急に起き出して騒いだ
■計算の間違いが多くなった
■買い物で支払いは小銭があるのに常に1万円札でする
■些細なことで怒りっぽくなった
■蛇口やガスの閉め忘れが目立つ
■前にあった関心や興味がなくなってきた
■処方箋の管理ができない
■慣れているところなのに道に迷った
■財布を盗まれたという
■置忘れやしまい忘れが目立つ
■ものの名前が出てこない
■時間の感覚が不確かになってきた
■日課をしなくなった
■複雑なテレビの筋がわからなくなってきた
以上の変化は一部ですが、思い当たるようなことがあったら、かかりつけ医に相談するのがいいと思います。
認知症には特徴のある症状があります。その症状は中核症状と周辺症状に分けられます。中核症状は認知症であれば必ず出現する症状であります。従って認知症を診断する上で、あるいはその重症度を判定する上で重要です。
では中核症状にどんなものがあるのでしょう。記憶障害、判断力の障害、問題解決能力の障害のほか、段取りをたてられない、予定をたてられないなどといった実行機能障害と、服を着れないという失行や人の顔がわからないという失認、言葉を話したり理解したりに問題がある失語などの高次皮質機能障害があります。
一方周辺症状にはどんなものがあるのでしょう。周辺症状とは中核症状によって二次的に作り出された様々な神経症状や行動の障害を言います。幻覚、妄想、せん妄、昼夜逆転、多弁、異食、過食、介護への抵抗、不潔行為、徘徊、暴言、暴行、焦燥、不安等があります。認知症を理解するには、中核症状は重要ですが周辺症状も重要になってきます。日常の生活の中でこの周辺症状として出現する精神症状や行動上の障害の有無や程度が診断の目安になりやすいからです。つまり家族がもっとも気づきやすい変化なのです。
まず地域における適切なケアを実施するために、介護保険の適用と成年後見制度の利用を確認します。介護保険についてはかなり幅広く普及してきたので、知っていることと思いますが、特にここ最近は体の機能もさることながら、認知障害も重要な介護の対象になってきました。介護保険の適用を受けるには、かかりつけ医の正しい診断といろいろケアマネジメントをしてくれる周囲の人の協力が必要になってきます。
成年後見制度とは聞き慣れない言葉だと思いますが、実は非常に大事になってきています。まだ利用している人は少ないです。個人の自己決定権を尊重し、能力を喪失した後においても、自己の意思を実現する可能性を探る制度です。新しい後見制度では、契約によって後見人を選べる任意後見制度と法廷後見制度に分かれます。従来は配偶者が自動的に後見人になったものですが、本人にとってもっともふさわしい人が選ばれるようになったのです。
この任意後見制度とは、本人の意思能力が十分保たれているうちに、自分で特定の任意後見人を選び、将来、自分の能力が低下したときに、生活、医療費および財産管理を任せる手続きをとる制度です。任意後見人は後見監督人を家庭裁判所で選任してからでないと認められませんので安心できます。
軽度もしくは中等度のアルツハイマー型認知症を診断された場合、薬物療法が可能になってきます。初めて認知症に有効な薬が登場したのです。と同時に介護保険などを利用してデイケア、デイサービス、ショートステイのようなレシピットケアも有効な治療効果があると認められています。
認知症には記憶障害、判断力障害、問題解決能力の障害、失行・失認・失語などの中核症状とそれに伴う様々な周辺症状があります。この中核症状にたいして効果のあるというアリセプトという薬が数年前に発売されました。今、日本で使われているアルツハイマー型認知症の唯一の薬です。 でもこのアリセプトはアルツハイマー病に対する完璧な特効薬ではありません。アルツハイマー病を治す薬ではないのです。ではなぜアルツハイマーに効くというのでしょうか?あくまで一時的にですが中核症状の改善もしくは進行を遅らせる効果があります。落ち着きが見られる、物忘れが少なくなった、話が通じやすくなったなどのADL(日常の生活機能)の改善に一定の効果がみられます。でも徐々に病気は進行していきます。その中で一生懸命薬物以外の治療に力を注ぐことによりかなりの効果が期待できます。 周辺症状にたいしては、非薬物的治療が主になりますが、対症療法として抗うつ薬、抗精神病薬、睡眠薬などが使われます。どの薬をどのようにして服用するかは担当の先生に相談してください。
■否定と肯定 認知症の患者さんのすることはふつう一般常識にあてはまらないことが多いです。その典型に帰宅願望というのがあります。今現在自分の家にいるのに今から帰るといって外に出ようとすることがあります。おそらく現在自分の家に住んでいるという認識がなくなって、若いときに住んでいた実家が現在の自分の家だと思いこんでいるのだと思います。 それに対し、ここはおばあちゃんの家でしょう、どこに行くって言うの、出て行っちゃダメ等のような否定の言葉は使うべきではありません。そうそうおばあちゃんのうちは○○県だったね、じゃあ行こうか、あっ今日はこんなに遅くなった、こんなに遅いんじゃ危ないから明日にしよう、明日なら朝から行けるよと肯定的な言い方をするのがいいと思います。たいていは納得しておとなしくなります。翌朝はいつもと同じ、家から外に出ようとしません。なぜなら昨夕の行動、言動は忘れているからです。否定的にするとうまく介護ができないばかりか、認知障害の進行を早めます。それに対して肯定をしてやるとその逆が期待できます。
■レシピットケアの利用 薬物療法以外では、デイケアやデイサービス、ショートステイなどのレシピットケア(休息ケア)の利用がすすめられます。しかし本人はこのようなサービスを自分から進んで受けようとはしません。家族もすすめはするのですが、それを拒否されると、本人がいやがっているのだから本人の意思を尊重して・・・と利用するのを諦めることが多いです。初めはいやがっても、最後まで拒否し続けることはありません。じっくり根気強くすすめることが大事です。意思を尊重するということをはき違えないようにしましょう。通うようになると家族は一定の時間介護から解放されます。解放されることにより介護を長持ちさせることができます。ただショートステイなどで環境の違った施設では本人の不安や恐怖が生じ、暴行、暴言、徘徊など様々な症状が悪化することがよくあります。慣れないうちは無理をせず施設のスタッフとも相談しながらステイ期間などを決めるといいでしょう。
■“グループホーム”とは、グループホームに住み、同じように認知症になっておられる方たちと共同の生活をする仕組みです。共同の生活ですから食事の用意も茶碗の後片付け、選択、掃除、風呂の沸かしもみんなですることになります。時には食材を買い求めにスーパーマーケットにも行きます。一杯やることもかまいません。ラーメンの出前もいいです。あくまでも共同住宅の発想だからです。 今まで家にいたときは家族から、あれはダメ、これはダメという環境に置かれていた時と違い、グループホームでは明るく楽しく愉快にみんなと一緒に共同で行うことで、かなり精神的な改善が期待できます。認知障害の進行も遅れます。当然、介護士やヘルパーのアシスタントがありますが・・・。
■認知障害があれば認知症というのは間違いです。一見認知症と思えるような状態であっても認知症ではなく別の病気だったりします。ではどんな状態があるのでしょう?
■加齢による変化 加齢による変化には、自分の名前をすぐに思い出せない、ど忘れが目立つなどがありますが、認知症との大きな違いは自覚出来ているということ、見当識障害がないということです。体験の一部分を忘れるとい事に対し認知症では全体を忘れます。探し物を努力してみつけようとするのに対し認知症では探し物を見つけようとせず、誰かが盗ったという事があります。認知症では物忘れを補うために適当につじつまをあわせる様なとんでもない話をすることがあります。
■廃用性の変化 自分の力で動くことのできないいわゆる寝たきりのお年寄りが何の刺激もないまま時が過ぎていきますと考える力が弱っていってしまします。健康な人でも骨折して長い間筋肉を使わないと次第に筋肉の力が弱るのと同じです。日付や時間の感覚が不確かになったり、応答がちぐはぐになったりします。一生懸命関わるようにすると回復することがよくあります。認知症では残念ながらよくなることはありません。
■うつ状態の変化 うつ状態には、(1)憂うつ気分(2)脱気力・全身倦怠(3)不安・焦燥(4)不眠などの自律神経症状の4大症状からなっています。(1)〜 (4)のうちすべてがそろうわけではなくわかりにくいこともあります。ただ計算を間違えたり、日付の感覚が不確かになることがあるため認知症と間違われることがあります。発症は比較的新しいことが多く、不眠を訴えるケースが圧倒的に多いです。認知症にはふつう睡眠障害はありません。
■せん妄 せん妄は軽い意識障害、幻覚(幻視)、運動不穏を伴う状態です。簡単な質問にも注意を集中できない、何回も質問し直さないと通じない等のことがあります。夜間に悪化し、夜間せん妄の形をとることが多いです。せん妄の場合、発症時期を特定することが出来ます。「うちのおばあちゃん骨折で入院したら急に痴呆が進んでさぁ・・・」ということをよく見かけますが、これは明らかにせん妄で認知症ではありません。せん妄と前項のうつは抗うつ剤(特に選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を用いるとよくなることが多いです。
■そのほか 血管性認知症、パーキンソン病、慢性硬膜下 血腫、脳腫瘍、正常圧 水頭症、甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏症などがあります。これらは専門医に相談されますとすぐにわかります。アルツハイマー型認知症という診断を得るためにはこのようなほかの疾患を否定しなければならない場合もあります。
認知症に関する本は町の本屋さんにたくさん出ています。どれも役に立つ本ばかりです。その中でも特に体験談を著した本はおもしろいだけでなく、実に役立つことばかりです。ここに何冊かの本をあげます。もう読んだ方もいるかもしれませんけれど、興味があったら読んでみてください。
「痴呆の理解と老人ケア」事例を当して学ぶ痴呆老人のケア
著者 五島シズ
出版社 (株)関西看護出版 2001年
「大逆転の痴呆ケア」
著者 和田行男 サポーター ミヤザキ和加子
出版社 中央法規出版(株) 2003年
「生き返る痴呆老人」グループホーム「福さん家」での暮らしと実践
著者 宮崎和加子 日沼文江
出版社(株)筑摩書房 2003年
「痴呆老人が創造する世界」
著者 阿保順子
出版社 (株)岩間書店 2004年
「のぞみホームの静かな力」新しい介護の生まれ方、育ち方
著者 奥山久美子
出版社 筒井書房 2003年